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心理セラピーの臨床例
はじめて心理セラピーをお受けになる方は、どんなことをするのかと、不安もあるかと思います。
ここでは、実際にセッションが、どのような形で進められるのか、例をあげてご紹介していきます。


◎何をするにも、やる気がおきない(Aさん 30歳、女性)

「最近何をするにもおっくうで、以前はできていた部屋の後片付けができなくなってしまった」
「休みの日にも、友達と出かけることも面倒で、やる気もおきない」
「このままではいけない、と思うが何をすればいいのかわからない」
という相談でやってきました。

看護師をしているAさんは、仕事も忙しく、休みもその疲れをとるためだけに使っていて、一日中自分の部屋ですごすこともよくあると言います。
自分が何のために働き、何のために生きているのかわからない、そんな状態でした。

セラピーを受けに来ることも、かなり一大決心をしてのことだったと思います。
それでも、何もしないで悩んでいるよりはと、思ったようです。

セッションで、彼女と初めてお会いしたときは、そんな風にまったく見えませんでした。
むしろ、仕事のできそうな、優秀で聡明な女性だなと感じました。
しかし、実は、それが彼女のやる気に深く影響していることも、そのときにはまだ、わかりませんでした。

お話を4、50分ほど、お聞きさせていただき、その後に、こう質問をしてみました。

私 「目を閉じて、体に意識を向けてください。あなたの、そのやる気の起きないという気持ちが、体にあるとすれば、どの辺りに感じると思いますか?喉、胸、胃、下腹のあたりを、順に探っていきましょう。喉...胸...胃...下腹...」

Aさん 「胸...の辺りかな」

私 「その感じは、どんな感じでしょうか?胸を締め付けられるような感じ?それとも、胸が切ない感じ?あるいは、胸が重たい感じ?どんな感じかよく感じ取ってください」

Aさん 「胸が、重たい...っていうか、重苦しい感じっていうか...」

私 「それでは、その胸の辺りにある感じに向かって、仲のいい友達にやさしく話しかけるように、こう言ってみてください。『こんにちは、私は、あなたがそこにいることを、ちゃんときづいてるよ』 」

Aさん 「こんにちは、私は、あなたがそこにいることを、ちゃんときづいてるよ」

私 「それでは、その胸の感じにもっと近づいていってあげてください。ゆっくりと、吐く息にあわせて、一歩一歩、近づいていきましょう。そして、その胸の感じのそばに寄り添うように、やさしさと、好奇心を持って隣にいてあげてください。あるいは、泣いている赤ちゃんをあやすように抱きしめてあげてください。そして、しばらく一緒にいてあげてください。私は黙って待っていますから、もう十分だと思ったら教えてください」

しばらく、たった後、Aさんは言いました。

Aさん 「はい。もう大丈夫です」

私 「どんな感じがしましたか?」

Aさん 「なんか、変な感じ。でも、なんとなく...安心したかな」

私 「そうしたら、次は、その胸のあたりにある感じに、名前をつけてあげましょう。どんな言葉がしっくりくるでしょうか」

Aさん 「名前ですか?そうだなあ...『胸が重い』...かな」

私 「『胸が重い』って名前でぴったりかどうか、そこに聞いてください」

Aさん 「はい。いいです」

私 「それでは、その感覚に向かってこう質問してください。
『何があなたをそんなに”胸が重い”感覚にさせているの?』
『あなたは、何を私に伝えようとしてくれているの?』
『私に何かしてほしいことはある?』」

Aさん 「『一人で頑張らないで』って...言ってるような気がします。『助けてもらうことも、時には必要だ』って」

私 「一人で頑張らないで...助けてもらうことも時には必要だ...そう言ってくれてるんですね。そうしたら、今度は、その感覚に向かって、こう質問してみましょう。『あなたは、これから、どうなりたいと思っているのですか?何もかも大丈夫になったら、どんな感じなるか、今の私の体に教えて...』」

Aさん 「...胸が...暖かくなりました。ほっとしたような感じかな」

私 「その感覚に、こうお願いしてみてください『今、私が感じている感覚を、私がどんなことをしているときに感じられるのか、それをしている場面を私に見せて」すると、頭の上にスクリーンに映っているみたいに、その映像が浮かんできます」

Aさん 「...結婚式...の自分の姿が浮かんできました」

私 「それでは、今、感じている感覚を思い出すのに、ぴったりの合言葉か、ポーズを決めましょう。(Aさんは、胸の前で手を組むポーズをとりました)そのポーズをとりながら、体の感覚をしばらく味わってください。
あなたは、そのポーズをとると、いつでもその感覚を思い出すことができます。

その感じにお礼を言いましょう。『ありがとう。いつでもあなたのことを、大切に思ってるよ』
そして、体の感覚を十分に味わったら、自分のペースで、ゆっくりと目を開けてください」

Aさんは、ゆっくりと目を開け、しばらく余韻にひたっていました。そして、私は聞きました。

私 「どうでしたか?」

Aさん 「無理してるのは、わかっていたけど、人に助けてもらえって言われて、なんとなく納得しました」

Aさんは、母子家庭に育ったせいか、小さいときからしっかりしていて、何でも自分でやってきたといいます。
その代わり、人に甘えることが苦手で、できそうもないことでも、無理をして頑張ってしまうところがあり、きづかないうちに、たくさんのストレスを抱えてしまったように見えました。

仕事も、以前より任されることも多くなり、自分のキャパシティとの間で葛藤もあったようでした。
何でも自分でやらなければならない、という思い込みが、彼女を知らず知らずの間に苦しめていたのです。
だから、「人に助けてもらう」ということが、必要なのかもしれません。

私 「結婚式の姿が浮かんだと、おっしゃっていましたが、それはAさんの?」

Aさん 「そうです。自分の結婚式です。相手もいないのに(笑)」

Aさんは、鍵っ子だったこともあり、暖かい家庭へのあこがれも人一倍強かった、といいます。
田舎の母親を安心させたい、という想いもあったようです。
しかし、仕事や、現状の自分とのギャップに、追い詰められたような気持ちが、無意識にあったのかもしれません。

焦りと、失望の間で、彼女の心は、静かに傷つき、疲れ果ててしまった。
それが、彼女のやる気の低下へと繋がったのかもしれません。

私は、彼女にある提案をしました。

私 「もうちょっと人に頼れるようになるといいですね。今の自分に、無理なくできることで、何か思いつくことはあるかな」

Aさん 「来週、仕事で頼まれていることがあるんですが、それを一人では不安だと言ってみようかと思います」

私 「そうですか。それは、無理なくできそうですか?」

Aさんは、にっこり笑ってうなずきました。
私は、Aさんが、迷路から出口を見つけられそうな予感がしました。
その他にも、恋人を見つけるための、行動課題や、やる気が落ちたら、感覚を思い出すために、胸の前で手を組むポーズをとることなどを、行動課題にして、1回目のセッションを終えました。



このような、感じでセッションは進められます。
人によって、問題によって、目的によって、やりかたは異なりますが、大まかな流れは変わりません。
初めに、お話を伺い、お聞きします。基本的にアドバイスや強制はしません。
また、行動課題も、その人が、無理なくできることが基本です。

2回目以降では、経過の確認をし、心境の変化に応じて、やりかたも変えていきます。
本人が、もう大丈夫だと思ったら、セッションは終了となります。



どうでしたか?
あなたにあったペースで、あなたにあった方法を使って、対応していきます。
わからないところは、ご遠慮なくお聞き下さい。


※ここにある内容は、話を解りやすくするために、一般化してありますので、ご了承ください。



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